湖北と呼ばれる琵琶湖の北辺に育った浅子は、不幸を背負いながらも美しい女性に成長する。
「嬉しい時の最中にも、かなしい時の最中にも、瞼にうかぶのは、母の面影でも無くて、この物悲しい湖北の景色でございました」
私(作者)が、大崎寺の茶店で、客のもてなしに精を出している大柄な、色白の初老の女―葛城浅子と出会った日のいきさつは、この物語には関係ない。ふとした奇縁から、茶をもてなしてくれる老女とねんごろになり、問わず語りに、老女が青春の頃の、薄幸な思い出話をしてくれたのが、じつは、この「湖北の女」と題する物語なのであった(平成29年7月読書会課題図書)
次回は「虚名の鎖」。若手女優が変死体となり、発見された。芸能界の裏面を暴く長編推理小説。