土の匂いのする作家
2023年9月1日

本日、お越しになられたお客さまとお話させていただくと、「最近、水上勉の本がほとんど絶版になって、懐かしの作品がまったく手に入らない。古本屋に行っても、ない。誰が隠しているんだ」というお話が、ポロリ。そうですね、古本屋の実店舗では、なかなか見つけるのも困難な状況です(ネットのサイトでは、結構ヒットするんですが)。
このお客さまは、なかなかディープな水上文学ファン! 「亀の出て来る、山の赤土を‥‥なんて作品だったかな?」「『山の暮れに』ではないでしょうか?」とか、「石牟礼道子の文学は海の匂いがして、水上文学は土の匂いがする。でも、この二人の根本は「ふるさと」というものだと思うんだが、それに関して何かないか」「水上勉は『海の牙』という作品で‥‥‥、石牟礼さんとの手紙のやり取りも残っていますし、それをご覧になられたら、それらの疑問にも光が差してくるのではないでしょうか」などの深い問いと応えの応酬の時間がひととき流れました。それで、冒頭の言葉につながります。
水上作品は、生誕100年以降、田畑書店さんなどで、次々に再版されてきています。それをお伝えしたら、とても喜んで、帰ったら探してコレクションしなおしますと言っていただけました(一滴はちょうど売り切れ中でした)。新しい装丁で、新しい解説がついて、またこれまでとは違った気持ちで読むことができるのではないでしょうか。
その方曰く「水上作品は、何度読んでも面白い。読み飛ばすことなんてできない発見が、いたるところに散りばめられている。こんな作家は、他にはいないよ」と、にっこり笑顔で教えてくださいました。(S)