桜の大木がかすみを吹くように花を咲かせた春の夜。月がいきなりころげて、空におどり出た。「ありゃあ?」まのぬけた声をあげたのは六郎太だ。生まれてまだ十年と七か月。月が見たくて草の中にねころんでいたのだ。「六郎太。おどろくことがあるものか」空にあいたあなの中から白いあごヒゲのおじじが顔がのぞかせたーー。
桜の大木がかすみを吹くように花を咲かせた春の夜。月がいきなりころげて、空におどり出た。「ありゃあ?」まのぬけた声をあげたのは六郎太だ。生まれてまだ十年と七か月。月が見たくて草の中にねころんでいたのだ。「六郎太。おどろくことがあるものか」空にあいたあなの中から白いあごヒゲのおじじが顔がのぞかせたーー。