NPO法人一滴の里

再開に寄せて

若州人形座は、若州一滴文庫くるま椅子劇場の背景の竹林から人形が出てきて物語をやってきたが、しばらく若狭の劇場が閉まっていたので人形だけが旅興行していた。
こんど、おかげ様でこの劇場が再び開くことになった。5月5日に「はなれ瞽女おりん」が公演される。コンパクトになっての公演だけれど、コンパクトでもいいのではないかと思っている。ひざの上にとりつけて操るのも、くるま椅子劇場ならではだ。くるま椅子生活者を見ていて思いついたのである。竹人形の味を見てもらいたいと思う。

若狭の若いお父さんたちが信州の私のところに来て、一滴文庫を下さいと言ってくれた。NPOを作って活動していくという。NPOの出現は夢ではないかと思った。子供の頃に見た竹人形劇が忘れられないと言ってくれた。ありがたいことだ。そんなことならどうぞ好きに使いなさいと答えた。若狭の若いお父さんたちがNPOをこさえて私の想いを引き継いでくれた。町も賛成してくれた。

一滴文庫を開いて19年たったが、19年経たないと使ってもらえないものもあるということだ。設立の趣意は「佐分利川の子らへ」に書いて文庫に掛けてある通りだ。

平成15年4月16日
水上勉


平成12年12月「21・風土作り懇話会」を立ち上げ、町民の方々からソフト面を中心とした今後の大飯町の町づくりについて、検討をいただきました。若い19名の委員の方達は、わが町の将来を真剣に議論し、またNPO、コミュニティビジネス、PFIなどの新しい方法論や行政と住民のパートナーシップの在り方などについて提言としてまとめられました。そのメンバーを中心に、平成14年2月にNPO法人一滴の里が誕生したのであります。NPO法人一滴の里は、若州一滴文庫を町づくりの拠点にしたいと水上先生に直接お願いし、先生もそれを快くご承諾されました。

一滴文庫は、当町の誇り得る最高の文化芸術拠点として数多くの来館者を迎え、文化振興の一翼を担っておりました。当町といたしましては、諸般の事情により休館中の若州一滴文庫を何とかしたいと考えておりましたので、NPO法人一滴の里についてはできる限りの応援をしようと決めたところでございます。

水上先生からは、文庫の土地、建物、蔵書を町に寄贈するというお申し出もあり、ありがたくお受けさせていただきました。運営はNPO法人一滴の里に委託しますが、この形態はまさに「21・風土作り懇話会」が提言した、行政と住民のパートナーシップによるコラボレーションでありますし、大飯町としては初めての試みであり、今後の展開に期待しております。

水上先生が若州一滴文庫を開かれて19年になりますが、ご著作はもとより、竹紙、陶芸、竹人形文楽など全国的に多くのファンがおられます。再び、この大飯町岡田の若州一滴文庫に多くの方が来館され、子供たちのにぎやかな声や、静かに読書をしたり、竹紙を漉く姿が見られるよう「もてなしの心と誇りある暮らしのまち」を目指していきたいと思っておりますので、皆様方には特段のご支援賜りますようお願い申し上げます。

平成15年4月16日
大飯町長 時岡忍


着物を畳む・店を畳む・心に畳む・などと言った、たたむという表現が日本にはあります。もしかすると、水上先生は自らお作りになった、若州一滴文庫を畳まれようとお考えになっていたのかもしれません。ご承知のように、文庫は休館となって3回目の春を迎えましたが、この度大飯町からの委託を受け、私共NPO法人一滴の里が運営させていただくこととなりました。

文庫の図書室に掛けてある先生のメッセージには、「本をよみたくても、買えない少年に解放する」とありますが、そんな子供はとうの昔にいなくなりました。一滴の里・大飯町は原子力発電所の城下町で、それが千載一遇のチャンスであったのか、苦渋に満ちた選択であったのかはともかく、ここ20年間の大飯町の変貌ぶりはネイティブの私たちでさえ信じがたいほどです。原子力発電所に頼っていれば、生活は安定し幼い子供を京都の寺へ出すことなどなくなりました。

しかし、そんな安定した生活の中で私たち”若いおとうさん”たちは、はたしてうまく子供を育てているのでしょうか。いや、私たち自身がはたして、「人生を切りひらく何かを拾って」生きてきたのでしょうか。そういう疑問と反省を込めて、改めて文庫を訪れたとき、それらの答えを導き出す並々ならぬエネルギーを感じることができました。

あのたたずまいの中から湧き出る「一滴の思想」こそが、この里に住む私たち一人一人にDNAとして記憶されていることに今気づきました。
これから、私たちはこの一滴文庫を拠点として、NPOの活動を始めていきます。これは、文庫を保存するとか、観光資源として見直すというだけのものではありません。この一滴の思想で、訪れる人々のこころと体を震えさせるほどに、そのDNAを共鳴させようとするものです。

先生のご厚意に甘えて、人生を切りひらく修行をさせて頂きたいと思います。
さあ、ここで人生や夢を拾ってみませんか。そして、その夢のひとしずくをこの里に落としてみませんか。その一滴の夢は、時空を超えて広がっていくかもしれませんよ。

平成15年4月16日
NPO法人一滴の里

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